はじめに

心臓の洞結節で発生する電気信号はわずか数ミリボルトの微小な電気です。この電気信号はカルシウムやカリウムなどのイオンが細胞内に出入りすることによって発生しています。また、この電気信号は特殊な通路を通って心臓の末端まで伝わりますが、その途中で心臓の大量の細胞を次々に興奮させ、心臓を一気に収縮させます。心臓には自動性、伝導性、興奮性、収縮性などの特徴がありますが、このうち、電気的特性である自動性、伝導性、興奮性とその回復過程を反映するのが心電図です。
したがって、収縮や拡張などの機能評価はできませんが(心臓超音波検査が必要です)、電気現象の表現形である波形から心臓の状態を知ることができます。

1.調律異常

洞結節から発生した電気信号により、心臓は60〜100/分の範囲で拍動します。これを「正常洞調律」とよびます。洞結節から発生した信号かどうかはP波の形態で判断できます。洞結節の興奮頻度は交感神経と副交感神経のバランスにより変動します。100/分の範囲を超えて速くなる場合を「頻脈性不整脈」、遅くなる場合(60/分未満)を「徐脈性不整脈」と呼びます。

◆ 頻脈性不整脈は以下のように分類されます。

1.速い洞調律 洞性頻脈
2.洞結節以外の部位から発生する 頻拍(上室性、心室性)、細動(心房細動、心室細動)、粗動(心房粗動、心室粗動)
3.洞調律下に洞調律よりも早いタイミングで他の部位から興奮する 期外収縮(心房性、心室性)

◆ 徐脈性不整脈は以下のように分類されます。

1.遅い洞調律 洞性頻脈
2.洞結節が一時的に興奮しなくなる 洞停止
3.洞結節で発火した信号が心房に拡がらない 洞房ブロック
4.心房まで伝わった洞結節からの信号が心室まで伝わらない 房室ブロック

2.伝導異常

心房P波から心室QRS波までの興奮伝導が正常範囲を超えて遅延したり、途絶したりする状況を「房室ブロック」と呼びます。房室とは心房と心室の両者を表しています。房室ブロックの重症度により1度、2度、3度(完全)房室ブロックに分類されます。1度房室ブロックは伝導時間が遅延するだけで、P波の後に必ずQRS波がありますが、2度房室ブロックでは、P波は規則的に出ていても、ときにQRS波を伴わないことがあります。すなわち洞結節からの電気信号が、時々心室に伝わらなくなる場合です。3度房室ブロックは完全房室ブロックともよばれ、心房からの信号が心室にまったく伝わらない状態です。この他、P波が連続して2つ以上QRS波を伴わない場合を高度房室ブロックといいます。また、心室内の興奮路のなかで、左右の脚に伝導障害が生じる場合を「脚ブロック(右脚ブロック/左脚ブロック)」といいます。

3.P波の異常

右心房の上にある洞結節からの電気信号が心房全体へ拡がって、P波が形成されます。P波の形より、心房への信号の拡がり方や、右・左心房への負荷などが判断できます。右房負荷や左房負荷が疑われた場合は原因疾患の診断のため心臓超音波検査を実施します。

4.QRS波の異常

洞結節から発生した電気信号は0.1秒で心室全体に広がります。このとき、心室が興奮して発生させた電気エネルギーがQRS波です。心室筋は心房筋より容量が大きく、大きなエネルギーを発するため、心房筋の興奮を表すP波より振幅が高くなります。高さの高いQRS波は心室肥大を表すことがあります。また、振幅とともに、ST部分やT波の異常を伴うかどうかで、病的意義は異なります。QRS幅の延長は心室の興奮伝導が遅いことを意味します。原因として脚ブロック、心室期外収縮、WPW症候群、心筋梗塞、心筋症などが考えられます。異常Q波は急性心筋梗塞や拡張型心筋症、急性心筋炎などで認められます。このほかにも、胸部誘導のV1〜V6をみたときに、R波とS波の振幅がほぼ同じになる「移行帯」と呼ばれる誘導がV1側にずれているかV6側にずれているかによって、左室の捻れ(心臓を下から見上げたときに時計方向や反時計方向に回転している)を知ることができます。また心臓を前からみた面での心室内の電気信号がどの方向に向いているかを知る「電気軸偏位」など、さまざまな情報をこのQRS波から得ることができます。

5.ST部分

心電図でS波からT波のはじまりまでをST部分といいます。基線(P波の終わりからQ波の始まりまで)よりもST部分が下方に位置する場合は虚血性心疾患(狭心症)や心臓肥大を疑います。また、ST部分が基線よりも上方に位置する場合は急性心筋梗塞や急性心膜炎などのことがあります。正常な若者でもST部分が基線よりも上にあることがあり早期再分極といわれますが、病的な意義はありません。